ワンオペのグループホーム、世話人の自己判断に気づく3つの経路|夕食が30分早かった話

グループホーム運営

この記事は、グループホーム(共同生活援助)を現在運営している管理者・運営者の方に向けた内容です。

結論から書きます。ワンオペの時間帯に起きる世話人の自己判断に、私はモノ・記録・人という性質の違う「気づく経路」を複数持つことで気づいています。直接見ていなくても、自己判断による変更は必ずどこかに痕跡を残します。見張るのではなく、痕跡が引っかかる網を張っておく、という考え方です。

グループホームの夕食帯は、多くの事業所でワンオペです。私の事業所も例外ではありません。管理者は、ワンオペの時間帯に何が起きているかを直接見ることができません。そして、見ていないところで起きる自己判断は、たいてい派手なものではありません。当人にとっては「このぐらいいいでしょ」で済む範囲の、小さなズレです。ただ、その小さなズレが、利用者の生活の安定を静かに削っていることがあります。

実際にあったのは、世話人による「夕食の提供時刻の前倒し」でした。18時30分と決めている夕食が、特定の職員の勤務日だけ30分早く出ていたのです。気づいたきっかけは利用者の世間話、裏付けは食事写真の撮影時刻でした。

この記事では、その事例をもとに、次の3つを書きます。

  • 見ていない時間の自己判断に、どうやって気づいたか
  • 疑いを、どうやって事実として確かめたか
  • 職員に、どう注意したか

前提として、ひとつ書いておきたいことがあります。管理者は、利用者への支援者であると同時に、職員に対しては雇用主でもあります。職員から業務についての要望や主張が出てくれば、向き合うのも管理者の仕事です。今回の事例は、支援者の顔と雇用主の顔の両方を使うことになった話でもあります。

気づいたきっかけは利用者の世間話|世話人によって夕食が早い

こんなことがありました(特定を避けるため、細部は変えてあります)。当事者は、夕食帯を担当しているパート勤務の世話人です。以下、パートさんと書きます。

私のホームでは、夕食の提供時刻を18時30分と決めています。ある日、利用者と話していると、「あの人のときはね、食事が早いんだよ」という話が出てきました。

思い返してみると、たしかに気になることがありました。その利用者は、以前は呼ぶまで食堂に降りてこなかったのに、いつからか早めに降りてきて、提供までの30分をずっと座って待つようになっていたのです。テレビを見たり、お茶を飲んだりして過ごすこと自体は一向に構いません。ただ、「部屋でゆっくりしていてもいいんですよ」と声をかけたところ、返ってきたのは「あの人のときは早いから、早く来るようにした」という言葉でした。

利用者にとっては、ただの世間話です。ただ、管理者としては見過ごせない話でした。

特定の職員の勤務日だけ夕食が早い、という違和感

念のため、他の職員にも「夕食帯で何か気になることはないか」と確認しました。特にそういう感覚はない、との答えでした。誰も問題を感じていないのに、利用者の行動だけが変わっている。少しおかしいと思っていたところ、どうもパートさんの勤務日だけ、食事の提供が早くなっているらしい、というところに行き当たりました。

食事写真の撮影時刻で夕食の前倒しを確かめた

疑いだけで職員に話をするわけにはいきません。裏付けが必要です。

食事の写真を撮ることにしています。導入の主目的は、ワンオペで互いに見えない食事風景を職員間で共有し、提供の量や質を揃えること。つまり品質管理と共有のためでした。

食事写真の撮影時刻をチェックしました。すると、ほとんどの職員が提供前の18時30分ごろに撮影している中で、パートさんの勤務日だけ、18時前に撮影されていたことが確認できました。記録は遡れますから、いつごろから前倒しが始まったのかまで特定できました。

監視のために入れた仕組みではありません。利用者のための記録が、副産物として事実確認の手段になった。この順番が大事だと思っています。

職員の要望と実態がつながらない理由

事実がわかったところで、ひとつ腑に落ちたことがあります。

このパートさんからは以前から、「食事を作る時間が足りない」「品数を作るのが大変」「作る量を減らしてほしい」という要望が出ていました。さらに、清掃の仕事も「忙しいのでなくしてほしい」と。時間のやりくりを相談したいのではなく、「できない」という主張でした。

提供を早めれば、調理に使える時間は当然短くなります。時間が足りないと言いながら、自分から調理時間を削る動きをしていたわけです。要望と実態がつながらない

夕食提供の職員は20時までの勤務で、夕食のあとに後片付けを余裕をもって終わらせてもらう設計にしてあります。提供を30分早めれば、そのぶん後ろの時間が空く。まずは、ちょっとした楽。それが、少しずつ常態化していったのだろうと思います。パートさんの感覚としては、「提供時刻が少しずれただけ」くらいの認識だったのではないでしょうか。

ただ、こだわりの強い利用者にとって、勤務者によって食事の時間が変わるというのは、かなりのストレスです。毎日18時30分に食事が出てくるという予測可能性そのものが、生活の安定を支えているからです。

職員側の「このぐらいいいでしょ」と、利用者側の大きな不利益。非対称であることこそが、ワンオペ現場の自己判断の厄介なところです。

世話人への注意の仕方|証拠は出さず、まず事実だけを聞く

裏は取れています。ただ、いきなり証拠を突きつけることはしませんでした。手元の情報は出さずに、まず事実だけを聞きます

「利用者から、食事の提供が早いときがあると聞いたのですが、どうですか?」

誰から聞いたかは特定しません。写真の撮影時刻から18時前に作り上がっていることを把握している、という情報も、初めの時点では出しません。

返ってきたのは、「利用者が早く降りてきてしまうんですよ」という説明でした。

「そうなんですか。ただ、うちは提供時刻が決まっているので、食事を早く出すのは、こだわりのある方が不安に思ってしまうのでやめてください。早く降りてくる利用者には、待ってもらって大丈夫です。そういう約束になっているので、利用者が降りてきたからといって、慌てて提供しなくていいんですよ」

事実の確認、やめてほしい理由、代わりの動き方。三点を伝えたうえで、最後にこう続けました。

「以前から、夕食帯は忙しいと言っていましたよね。この際なので時間配分を見直したいから、実際の動きを教えてもらっていいですか?」

パートさんは、そこで言葉が続きませんでした。実際の時間配分を出せば、提供を前倒ししていることが、自分の口から明らかになるからです。

「今のままでいいです。できます」との返答をいただいたので、このパートさんには今も働き続けてもらっています。

対応の軸はシンプルです。職員の主張は、もっともだと思えば取り入れる。違うと思えば、理由をきちんと説明する。そして、本当に利用者が早く降りてきて調理に支障が出ているのなら、その事実をそのまま報告してくれればいいだけの話です。報告ではなく、提供時刻を自分で変えることで対処してしまった。自分で変えたことが問題なのだと伝えました。

実害ラインという考え方|管理の目的は職員の監視ではない

先に書いておくと、私は職員の一挙手一投足を管理したいわけではありません。上手くやってくれるなら、人が見ていなくても構わない、とすら思っています。

ただし、越えさせてはいけない線があります。利用者に実害が出るラインです。

食事が決められた通りに提供されていない。服薬の管理が崩れている。清掃がされていない。こういうものは「職員の働きぶりの問題」ではなく「利用者へのサービス品質の問題」です。実害ラインの内側は職員の裁量の外側にあるもので、言語道断の領域です。

つまり管理の目的は職員の監視ではなく、利用者への品質保証です。この整理をしておくと、どこまで仕組みを入れるべきかの判断がぶれなくなります。

ワンオペのグループホームにチェック体制は組めない

「チェック体制を作ればいい」と思うかもしれません。ここで言うチェック体制とは、業務が決められた通りに行われたかを、別の職員が都度確認しに行く仕組みのことです。ただ、小規模事業所でそれは現実的ではありません。

たとえば食事の品数にばらつきがあるのでは?と疑ったとして、毎食を誰かが確認しに行く体制は組めるわけがない。チェックのための人員も時間もない。それがワンオペ運営というものです。

私がやっているのは、チェック体制を組む代わりに、気づく経路を何本も持つことです。自己判断による変更は、直接見ていなくても、必ずどこかに痕跡を残します。その痕跡が引っかかる網を、種類を変えて複数張っておく。

私のホームでは、大きく3つの経路があります。

経路①:モノが語る

物の状態は嘘をつきません。しかも勝手に記録として残ります。

  • 薬の数。服薬管理が崩れていれば、残数に必ず出ます
  • 日用品・備品の在庫の動き。使われ方が不自然なら、何かが起きています
  • 清掃状況。やったことになっているのにやられていない、が一番わかりやすく出る場所です
  • ゴミ。ちゃんと捨てられているか。地味ですが、生活の乱れが最初に出るポイントのひとつです

今回の事例で使った食事の写真も、「モノが語る」経路のひとつです。写真そのものだけでなく、撮影時刻という付随情報までが痕跡として残る。支援と共有のために入れた記録が、結果として検出の網にもなっています。

経路②:記録が語る

支援記録やチェックリストは、書かれた内容だけでなく、書かれ方・書かれなさにも情報があります。

やることチェックリストを作っていますが、チェックが外れやすい職員がいます。単なる記入漏れかもしれません。ただ私は、チェックが外れやすい人は他の業務の遂行率も怪しいだろう、と推定して、後で「あれ、やれてました?」と個別に確認するようにしています。

全職員・全業務を確認することはできません。だから、観測できる小さなズレを手がかりに、確認リソースをどこに割くかを決める。チェックリストは業務の管理表であると同時に、フォローの優先順位を教えてくれる計器でもあるわけです。

あとは記録の見返し。定期的に読み返して、引っかかる箇所がないかを見ます。

経路③:人が語る

最後は、いちばんアナログで、いちばん強い経路です。

巡回のとき、利用者に「最近、変わったことない?」と聞きます。すると「あの人がね」と話が出てくることがあります。ゴミの捨て方の話だったり、些細な変化だったり。その話を兆候として拾って、実際に何が起きているのかを見に行きます。

職員も、ときには利用者本人も気づいていないようなことが、人の経路から見つかることがあります。そして巡回で話を聞くこと自体は支援そのものなので、ここでも「監視ではなく支援の副産物として気づく」という順番が守られます。今回の事例の入口も、まさに人の経路でした。

気づく経路を束ねると精度が上がる

モノ・記録・人。3種類の経路はそれぞれ性質が違うので、死角がかぶりません。どれか1本をすり抜けても、別の網に引っかかります

今回の事例も、入口は利用者の世間話(人)、裏付けは写真の撮影時刻(モノ・記録)でした。どちらか1本だけなら「気のせいかもしれない」で終わっていたはずです。1本の経路は弱くても、束ねると精度が上がります。

もうひとつ。3つの経路から拾った情報は、すべてデータとして蓄積しています。

今のところ、個々の小さなズレに気づくのは人間の仕事です。ただ、集積したデータの分析はAIの得意分野です。日々の記録・写真・チェックリストの履歴が積み上がっていけば、「なんとなくおかしい」を人間の勘に頼らず検出できる日は、そう遠くないと思っています。小規模事業所こそ、人手の代わりに分析を取りに行くべき領域だと考えています。

まとめ|ワンオペの世話人管理は「監視」ではなく「気づく経路」で

  • ワンオペ現場の業務品質は、最後は職員個人の倫理に依存する。構造の問題で、採用や指導だけでは解決しない
  • 管理の目的は職員の監視ではなく、利用者への品質保証。「実害ライン」を定義しておくと判断がぶれない
  • 職員の主張は鵜呑みにしない。もっともだと思えば取り入れ、違うと思えば理由をきちんと説明する
  • チェック体制を組むリソースはない。代わりに、モノ・記録・人という性質の違う「気づく経路」を複数持つ
  • 仕組みは「監視のため」ではなく「支援と共有のため」に入れる。検出はその副産物という順番が、現場を壊さないコツ
  • 拾った情報はデータとして蓄積する。分析はいずれAIの仕事になる

おまけ:気づく経路セルフチェック

自分の事業所に「網」が何本張れているか、確認してみてください。

  • 薬の残数を定期的に数える機会があるか
  • 食事の提供内容が写真などで記録に残っているか
  • 清掃・ゴミ出しの状態を管理者が定期的に見る動線があるか
  • チェックリストの「書かれ方の癖」を職員別に把握しているか
  • 支援記録を定期的に読み返す時間を確保しているか
  • 巡回で利用者に雑談として近況を聞いているか

全部やる必要はありません。性質の違う経路が2〜3本あれば、死角はかなり減ります

小規模のワンオペ運営で「見ていない時間」に不安を抱えている方の、何かの参考になれば幸いです。

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