この記事は、すでにグループホーム(共同生活援助)を運営している管理者・サービス管理責任者の方に向けて書いています。
体験利用から少しずつ本入居へ──この「段階的移行」の型が、ある条件の下ではまったく機能しなくなる。そのことを痛感した、薬をめぐる体験談です。
背景──ご家族の希望で、体験利用を重ねていた方
その方は、ご家族の「本人のホーム入居は早めに進めたい。だから体験入居を続けたい」という希望があり、体験利用を重ねていました。
ご自宅での生活には、正直なところ不安な要素が多くありました。親御さんの高齢化と経済的な事情で、日々の暮らしの維持が難しくなりつつある。それでも、ご本人とご家族の気持ちを考えれば、入り口を閉ざすことはしたくない。私は難しさを感じつつも、受け入れを続けるという判断をしました。
そして迎えた次の体験利用で、新しい問題が見えてきました。
「お薬手帳は、ないです」
この方は精神科に通院しており、服薬もあります。体験利用の受け入れにあたって、当然こちらは薬の内容を把握しておく必要があります。
ところが、薬を持ってきてもらったところ、返ってきた言葉がこれでした。
「お薬手帳は、ないです」
通院している方の入所にもかかわらず、お薬手帳がない。処方の全体像を確認する手がかりが、手元にないわけです。
仕方がないので、前回の体験利用のときに預かった処方箋の控えと、今回持ってきた薬の現物を、一つひとつ突き合わせてみました。
突き合わせて分かったこと──重要な薬の調整が始まっていた
照合してみると、どうも処方内容が変わっているようでした。
リスペリドンが減らされている。
よりによって、精神科の薬の中でもかなり重要な部類にあたる抗精神病薬の調整が、いつの間にか始まっていたのです。
ご本人に聞いてみても、「飲む時間帯を夕食後から寝る前に変えてもらったんです」という程度の答えで、薬の量そのものの調整が入っていることを自覚しているのかどうかは、はっきりしませんでした。
減量が始まって、およそ1ヶ月。ちょうど状態が変わってくる時期です。
ここが一番こわいところ
- どうして減薬になったのか、経緯を知っている支援者がいない
- 状態がどう変わっているのか、継続して観察している人がいない
- ご本人も、自分の変化を言葉にできる状態ではない
- つまり「何がどうしてこうなったのか」を、誰も説明できない
この状態で「では少しずつ泊まる日数を延ばしていきましょう」と言われても、こちらは何を基準に本人の変化を見ればいいのか分からないのです。
状態が動いているときに、「段階的に慣らす」はできない
体験利用の理想形は、少しずつ滞在を延ばしながら、新しい生活の場に慣れていくことです。
でもそれが成り立つのは、本人の状態というベースラインが安定している場合に限られます。
減薬の途中で状態そのものが動いている時期に体験利用を重ねても、「環境が変わったから調子が崩れたのか」「薬が減ったから崩れたのか」の切り分けができません。段階的移行のはずが、変数が多すぎて何も評価できない期間になってしまうのです。
さらに問題なのは、医療機関との情報の流れです。通院に付き添っているのはご本人とご家族だけで、支援者側との報告・連絡・相談の経路がありません。処方が変わっても、こちらには一切情報が入ってこない。
その状態で「定期的な体験利用を繰り返したい」と言われましても、というのが正直なところです。
体験利用は「生活が落ち着いている人」のための制度
今回の件で、私の中の整理がひとつ進みました。
体験利用というのは本来、状態が良い方、生活が落ち着いている方が、この先に向けて新しい場所を探したり、暮らし方を模索したりするための制度なのだと思います。
今の生活がある程度回っているからこそ、「試してみて、合わなければ戻る」ができる。戻る先の生活が崩れかけている人には、この前提がそもそも成り立ちません。
この方の場合、緊急入院が必要なほど破綻しているわけではありません。でも、親御さんの高齢化と経済的な事情で、自宅での生活は明らかに崩れかけています。体臭もきつく、おそらく入浴もできていない。在宅への支援も入れられない状況だと聞いています。
こういうケースに「体験利用で少しずつ」という一律の型を当てはめること自体が、合っていないのではないか。そう感じています。
「まず入居して立て直す」というルートがあっていい
では、どう考えるか。
私は、緊急での受け入れと同じ発想でいいのではないかと思っています。つまり、体験利用を長く挟んでから入居、ではなく、まずホームに入居してしまって生活を立て直す。そのうえで、この先の道筋を選ぶという順番です。
生活が崩れかけている方のルート選択
- まず入居して、食事・服薬・入浴・金銭管理といった生活の土台を立て直す
- 立て直しのなかで状態と生活力を見きわめる
- そのままホームで暮らしていくのか
- それとも自宅に戻る道筋を整えて、在宅生活を目指すのか
- 入居はゴールではなく、ルートを選ぶための足場と考える
「すぐに移る可能性がある時期」だけを体験利用の扱いにして、支援の中身は最初から本入居と同じように組み立て、そのまま本入居へ移行するように設計しておく。体験利用を「お試し期間」ではなく「出口を確保するための保険」として使う形です。
体験利用にはいろいろな使い方があって、一律の「少しずつ慣らすお試し」ではないはずです。生活が崩れかけている方であれば、最初の数週間で「このホームで立て直しが可能かどうか」を見きわめ、可能ならそのまま本入居として生活を続け、暮らしを見ながら在宅に戻る道筋を立てていく。そういう組み立てのほうが、本人を守れるのではないかと考えています。
まとめ──体験利用を受けるとき、確認しておきたいこと
今回の経験を通して、体験利用の受け入れ判断で私が確認するようになったポイントをまとめます。
体験利用の受け入れ前に確認したいこと
- お薬手帳の有無と、処方内容の最新の情報が得られるか
- 処方の変更があった場合、支援者側に情報が届く経路があるか
- 減薬・増薬など、状態が動く要因が今まさに進行していないか
- 自宅での生活が維持できているか(食事・入浴・金銭・衛生)
- 「試して合わなければ戻る」の戻り先が、機能しているか
体験利用は便利な仕組みですが、万能ではありません。生活が崩れかけている方に段階的移行の型を当てはめると、支援は中途半端、状態の変化は誰も追えない、という一番危うい状態が生まれます。
もし今、受け入れを検討している方の「戻り先」に不安を感じているなら、体験利用ありきではなく、まず入居して立て直すルートも含めて、相談支援専門員やご家族と選択肢を並べ直してみてください。その整理が、結果的にご本人を一番守ることになると、私は思っています。


コメント