この記事は、グループホーム(共同生活援助)をすでに運営している管理者・運営者の方と、これからグループホームを立ち上げたいと考えている方に向けて書いています。報酬請求の流れと、「こちらに不備がなくても入金は遅れることがある」という実例を通して、資金繰りの考え方を一緒に確認できたら嬉しい内容です。
ある日、役場から一本の電話
先日、役場から連絡がありました。
内容はこうです。利用者さん1名分について、行政側が利用実績の入力を誤ってしまい、国民健康保険団体連合会(国保連)の審査で請求が弾かれてしまった。つまり返戻になった、とのことでした。
そのため、先月分の請求は、今月分の請求と一緒にもう一度出し直してほしい、という連絡です。
私は「わかりました、大丈夫ですよ」とお答えして電話を切りました。
電話対応としてはそれだけの話です。ただ、電話を切ったあとに改めて考えると、これは経営的には結構大変な案件だと思っています。
何が起きたのか整理すると
起きたことをシンプルに言うと、こうなります。
利用者さん1名分の報酬、金額にしておよそ30万円の入金が、丸1ヶ月後ろにずれました。
しかも今回は、こちら側の請求に不備は一切ありませんでした。事業所として正しく請求したものが、行政側の入力ミスによって返戻された、というケースです。
自分の請求ミスで返戻されたのであれば、「仕方がない、次から気をつけよう」で終わる話です。しかし、こちらに落ち度がなくても、入金が1ヶ月ずれることは起こる。今回それを実際に経験しました。
こんなことがあるんですね、というのが正直な感想です。
そもそも報酬はどういう流れで入金されるのか
今回どこで事故が起きたのかを説明するために、まず報酬請求の流れを整理しておきます。
グループホームの報酬は、事業所から市町村に直接請求するのではなく、間に国民健康保険団体連合会(国保連)を挟みます。流れはこうです。
- 事業所が、サービス提供月の翌月10日までに国保連へ請求データを提出する
- 国保連が請求内容を審査する。このとき、市町村が入力した利用者ごとの支給決定情報や利用実績と、事業所の請求内容を突き合わせる
- 審査を通った請求が市町村に回り、支払いが確定する
- 報酬は国保連を経由して、サービス提供月の翌々月の15日〜20日頃に事業所へ振り込まれる
つまり、今月提供したサービスの報酬が入金されるのは、約2ヶ月後です。この時点で、そもそもグループホームの入金サイクルはかなり遅い、ということを押さえておいてください。
今回の事故が起きたのは、この流れの2番目です。市町村側が入力した利用実績のデータに誤りがあり、事業所の請求内容と一致しなかったため、国保連の審査で弾かれて返戻になりました。うちの請求データは正しかったのに、突き合わせる相手側のデータが間違っていた、というわけです。
返戻になった分は翌月の請求に載せて出し直すことになるので、入金はさらに1ヶ月後ろへずれます。通常でも2ヶ月遅れの入金が、3ヶ月遅れになるということです。
返戻は珍しいことではない、と知っておく
これから開業する方に向けて補足しておくと、返戻自体は決して珍しいものではありません。
返戻とは、国保連の審査で請求が通らず、事業所に差し戻されることです。原因としてよくあるのは、こんなものです。
- 受給者証の番号や支給決定期間の入力誤り
- 市町村側の支給決定情報と請求内容の不一致(今回のケース)
- 契約内容の届出漏れや、加算の届出との食い違い
- 利用実績の日数や単位数の誤り
返戻になっても、請求そのものが消えるわけではありません。翌月の請求時に正しい内容で出し直せば、報酬は支払われます。ただし、その分の入金は1ヶ月後ろにずれます。
つまり返戻は、「もらえるはずのお金がもらえなくなる事故」ではなく、「入金が1ヶ月遅れる事故」です。金額が消えないぶん軽く考えがちですが、資金繰りへの影響という意味では十分に重い。そして、自分の請求が完璧でも起こり得る。開業前の資金計画には、返戻で入金がずれる月がある、という前提を織り込んでおくことをおすすめします。
「大丈夫ですよ」と言えたのはなぜか
役場からの電話に対して、私は特に揉めることもなく「大丈夫ですよ」とお答えして終わりました。
ただ、これが言えたのは、うちのキャッシュフローに厚みがあったからだと思っています。
もし手元資金をギリギリで回している状態だったら、30万円の入金が1ヶ月ずれるというのは、笑って流せる話ではありません。職員の給与、家賃、水道光熱費、食材費。グループホームの支出は毎月待ってくれませんから。
資金繰りをギチギチで組むべきではない、というのはよく言われる話ですが、今回それを身をもって実感しました。
想定していたリスクと、想定外のパターン
私自身、報酬まわりのリスクはある程度想定して動いてきたつもりでした。
- 自分たちの請求ミスによる返戻
- 利用者さんの入院による報酬減
- 制度改定による報酬の変動
このあたりは「起こりうるもの」として頭に入れていました。
ただ、「行政側の入力ミスで、正しい請求が返戻される」というパターンは、正直想定していませんでした。しかも、これは事業所側の努力ではどうにも防ぎようがありません。
だからこそ、個別のリスクを潰す努力とは別に、「何が起きても耐えられる現金を持っておく」という備え方が重要なのだと思います。
入金が遅れうるパターンの想定チェックリスト
うちの経験をもとに、報酬の入金が遅れたり減ったりする可能性のあるパターンをまとめておきます。資金計画を立てるときの参考にしてください。
- 自事業所の請求ミスによる返戻
- 行政側の入力ミスによる返戻(今回のケース)
- 利用者さんの入院・外泊による報酬減
- 利用者さんの退居による空床期間
- 制度改定・報酬改定による減収
- 加算要件を満たせなくなったことによる減算
このうちどれか一つが起きても事業が揺らがない現金残高を、平時から確保しておくことをおすすめします。
手元資金はどのくらい持っておくべきか
では、こうした事態に備えて手元資金はどのくらい必要なのか。
一般的な中小企業の資金繰りでは、固定費の3ヶ月分から半年分の現金を持てと言われることが多いようです。ただ、これはあくまで一般論で、グループホームの制度上の基準があるわけではありません。
そのうえで、この業態には一般論をそのまま当てはめられない事情があります。入金の遅さと時差です。
まず、報酬の入金はもともと2ヶ月遅れです。そこに返戻が重なれば3ヶ月遅れになります。飲食業や小売業なら売上は当日から数日で現金になりますし、一般的な企業間取引でも翌月末には入金されるのが普通です。それと比べると、この業態の入金サイクルは異常に長い。この長さを前提に資金計画を組む必要があります。
もう一つ重要なのは、「3ヶ月分の現金」というのは「今日から3ヶ月耐えられる」という意味では足りない、ということです。今月起きたミスやトラブルの影響が出るのは、2〜3ヶ月先の入金です。つまり資金繰りは、常に数ヶ月先を見て動くことになります。今の残高だけを見て安心していると、3ヶ月後に突然崩れる。今回の返戻も、影響が出るのは連絡を受けた瞬間ではなく、本来の入金日です。この時差があるからこそ、資金繰りは目の前ではなく先を見て組む必要があるのだと実感しました。
月間運営費の中身は、人件費(給与と法定福利費)、家賃、水道光熱費、食材費、保険料、通信費あたりの合計です。グループホームは支出の6〜7割が人件費と言われますから、まずここを正確に把握しておくこと。そのうえで、具体的な目標残高は、顧問税理士と相談しながら自分の事業所の数字で決めていくことをおすすめします。
まとめ:問題を小さくできるのは、キャッシュだけ
正直に言うと、30万円は小さな金額ではありません。1ヶ月のずれも、軽い話ではありません。
それでも今回の件が「大丈夫ですよ」の一言で済む軽い事務連絡になったのは、手元のキャッシュに厚みがあったから。それだけです。出来事の大きさは変えられませんが、手元資金の厚みだけが、問題を小さくしてくれました。
報酬請求の返戻は、こちらが完璧でも起こります。個別のリスクをすべて潰すことはできませんが、何が起きてもクリアできる状態を作ることはできます。そしてそれを可能にするのは、結局のところ現金だけです。
これから立ち上げる方も、すでに運営している方も、資金繰りをギチギチで組むのではなく、想定外に耐えられる現金を持っておく。今回の出来事から、改めてそう感じました。
キャッシュはちゃんと持っておきましょうね、という話でした。


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