この記事は、すでにグループホーム(共同生活援助)を運営している管理者・サービス管理責任者の方、そしてこれからホームを立ち上げようと考えている方に向けて書いています。
体験利用の受け入れで、ちょっとヒヤッとした話です。
最後はちゃんと「じゃあ、受け入れる前に何を見ておくか」に着地させるので、お付き合いください。
「◯◯さんが、いなくなりました」
その日、利用者さんが通っている作業所から電話が入りました。
うちのホームから通所している方が、いつの間にかいなくなってしまった、と。
作業の途中で、誰にも何も言わずに、姿が見えなくなったというのです。
体験利用の真っ最中でした。
受け入れたばかりの方です。
正直、頭の中が真っ白になりました。
事故か、迷子か、もっと悪いことか……。
結論から言えば、その後ご本人は無事に見つかりました。
ただ、見つかるまでの時間は、文字どおり冷や汗ものでした。
🟥 体験利用だから、と油断してはいけません。こちらが本人の行動パターンをまだつかみきれていない分、むしろ離設(無断でいなくなること)のリスクは高いと考えるべきです。所在不明の数時間が取り返しのつかない事態になりかねません。
本人は、家までお金を取りに帰っていた
無事に見つかったあと、ご本人に理由を聞きました。
「お金がなかったので、家まで取りに帰っていた」
そういうことでした。
この方は、お金の管理をご家族(高齢の親御さん)がしています。
あればあるだけ使ってしまうタイプの方で、ご家族もそれが分かっているから、いつも最小限しか持たせていない。
だから、たった二泊三日程度の体験利用でも、お小遣いが足りなくなる。
そして誰にも言わず、作業の途中で家に取りに帰った。
そもそも体験利用というのは、いきなり本格的に入居するのではなく、まず数日だけ泊まって生活を試してもらう仕組みのことです。
連続して30日まで、年間で50日まで、という上限があって、利用には自治体の支給決定がいります。
「ここでやっていけそうか」をお互いに確かめる、いわば助走期間ですね。
その助走の最中に、本人は黙ってお金を取りに帰ったわけです。
本人の中では、筋が通っているんですよね。
お金がない、家に行けばある、だから取りに行く。
悪気は一切ない。
ただ「黙って持ち場を離れる」という行動が、こちらから見れば行方不明そのものだった。
ここに、体験利用の難しさが詰まっていました。
毎回、持ち物が足りない
実はこの方、これまでにも何度か体験利用をしています。
そして毎回、共通して「持ち物が足りない」のです。
🟨 体験利用でよくある「持ち物が揃わない」問題
- 飲んでいる薬が入っていない
- 歯ブラシやタオルといった日用品がない
- 着替えが、穴のあいた服しかない
背景には、かなり厳しい経済事情があります。
親御さんも高齢になって、日々の生活を回すこと自体が難しくなってきた。
そこに福祉が入りはじめた、というのがこの方のケースです。
つまり、持ち物が揃わないのは本人の不注意ではなく、家庭そのものが回らなくなっているサインなんですよね。
「徐々に移行」は、後ろ盾がしっかりしていて初めて回る
この方の計画は、こうでした。
本人もご家族も、今の暮らしを一気に変えるのは不安。
だから体験利用から始めて、少しずつ生活の場をホームに移していきましょう、と。
きれいな計画です。
理想を言えば、これが一番やわらかい移行の形だと思います。
でも、今回はっきり見えたことがあります。
体験利用という位置づけのままだと、生活の根っこにどうしても手を入れられないんです。
たとえば、お金の管理。
本入居(正式な入居)であれば、預り金として記帳して、複数人で管理して、鍵をかけて保管して……と、日々のお小遣いの渡し方まで支援として組み立てられます。
でも体験利用の段階では、お金はあくまでご家族の手の中にある。
私たちが「では、こちらで管理しましょう」と踏み込める立場ではない。
ここが、もどかしいところでした。
🟥 介入が中途半端なまま、後ろ盾である家族も崩れている——この状態が、いちばんこわいんです。お金が足りない、持ち物が揃わない、黙っていなくなる。その隙間に、リスクが次々と落ちてきます。
正直に言えば、この方は本入居してしまったほうが早く立て直せる、と私には分かっていました。
お金も、持ち物も、生活リズムも、入居支援の中でなら一つずつ整えていける。
それでも体験利用から始めたのは、本人とご家族の「まだ不安だ」という気持ちを大事にしたかったからです。
その判断を後悔しているわけではありません。
ただ、「体験利用で徐々に移行する」という理想は、支える背景がしっかりしていて、初めて回る。
そのことを、今回思い知りました。
お小遣いひとつ用意できない。
持ち物が揃わない。
連絡なく持ち場を離れる。
一つひとつは、小さなズレです。
でも後ろ盾が崩れている家庭では、その小さなズレが積み重なって、支援する側が「これはもう回らない」と感じるところまで、一気にきてしまうのです。
じゃあ、受け入れる前に何を見るか
この一件を「ヒヤッとした話」で終わらせず、次に同じ相談がきても判断できる形にしておきます。
私が体験利用の受け入れを考えるとき、本人の様子と同じくらい見るようにしているのが、「後ろ盾」のほうです。
🟨 体験利用を受け入れる前に、確認しておきたいこと
- 日々のお金は、誰が、どう管理しているか
- 体験中の小遣いや持ち物を、誰が責任をもって用意できるか
- 支える家族は、いま機能しているか(高齢・経済状況・心身の状態)
- 本人に「お金がなくなると動く」「黙って出ていく」傾向はないか
- そもそも本入居のほうが、早く落ち着くケースではないか
そのうえで、私はこう考えるようになりました。
🟦 後ろ盾が崩れている家庭では、体験利用で時間をかけるより、本入居で一気に立て直すほうが、本人のためになることがあります。「体験から少しずつ」が、いつも正解とは限りません。
うちのホームは、なんだかんだで緊急の受け入れが多い事業所です。
だからこそ今回、「生活の場を移していく」という体験利用本来のテーマと、その難しさを、改めて突きつけられました。
体験利用は、本人にとっても事業所にとっても、意味のある仕組みです。
ただ、「とりあえず体験から」と流れで受けるのではなく、支える後ろ盾が立っているかどうかを、いちばん最初に見る。
それだけで、こういうヒヤッとする事態は、ずいぶん減らせるはずです。


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