はじめに|これは「正解」を示す記事ではありません
今回は、グループホーム内で発生した金銭トラブルについて、運営側としてどのように判断し、どのような対応を行ったのかを一事例として共有します。
グループホームでは、他人同士が共同生活を送る以上、大小さまざまなトラブルが起こり得ます。その中でも金銭トラブルは、支援者にとって特に判断が難しく、精神的な負担も大きいテーマです。
本記事は「こうすべき」「これが正解」という対応方法を示すものではありません。
障害の程度や特性、その時の生活状況、人間関係など、現場で起きていることのすべてを文章で表現することはできません。そのため、本記事で紹介する内容はあくまで今回の状況において、私たちがこう判断したという一例です。
同じような場面に直面したとき、
こういう考え方もあるのか
自分ならどう判断するだろうか
と考えるきっかけとして読んでいただけたらと思います。
起きた出来事|事実関係のみ
金銭管理が難しく、手元にあるお金をすべて使ってしまう傾向のある利用者さんがいました。
グループホームでは、利用者さんの状況に応じて、金銭管理を部分的に支援する場合があります。
この方に対しホームでは、日常的に金銭管理への支援介入を行っていましたが、ある日、本人のお小遣いでは購入できない高価な物品を所持していることが発覚しました。
本人に話を聞き、居室内を確認したところ、
- 本人が本来持ち得ない額の現金
- そのお金が盗まれたものである可能性
が浮上しました。
本人は「盗った」と話す場面もありましたが、知的障害・発達障害の特性により、
- 事実関係を時系列で説明できない
- 言葉の意味を十分に理解しないまま肯定してしまう
- 不安になると発言が二転三転する
といった状態が見られました。
聞き取りを重ねるほど、かえって状況が混乱していく――そのような経過をたどりました。
現場が直面した一番の悩み
このような状況は、決して珍しいものではありません。
障害特性上、
- 現実を正確に認識すること
- 起きた出来事を言葉で整理して伝えること
が難しい方も多くいらっしゃいます。
しかし一方で、本人の部屋から明らかに本人の資産ではない金額の現金が見つかったという事実があります。
「部屋にあったから本人のもの」として扱うことはできません。
そのため、当該金銭は一時的にホームで預かり、金庫で保管し、経過はすべて記録に残しました。
警察への届出も選択肢として検討しましたが、
- 被害状況の特定が難しいこと
- 本人の障害特性の説明が必要になること
などを踏まえ、まずはホーム内および本人の行動範囲で金銭被害が出ていないかの確認を優先しました。
その結果、
- おおよその被害範囲
- 返金が可能と思われる金額
が整理できました。
精神的に一番しんどかったこと
支援者として特に苦しかったのは、
- 本人に悪意があるとは言い切れないこと
- しかし結果として加害行為が起きていること
- そのことへの反省や理解が本人には難しいこと
この現実を受け止め続けることでした。
「窃盗はしてはいけないこと」「社会で暮らす上で守るべきルール」
それ自体が本人には十分に理解できない。
説明を重ねても響かないやり取りが続くと、支援者側の心がすり減っていきます。
自由を尊重したいという思いがある一方で、加害行為が起きている以上、何の対応もしないという選択はできません。
この矛盾の中で判断を続けることは、想像以上に負荷の大きい作業でした。
だからこそ必要だった「一線引き」
感情的に揺さぶられる場面があっても、ホームとしてやるべきことは淡々と行う必要があります。
本人からはその後も、
「それは僕のお金なのに、どうして返してもらえないのですか?」
という訴えが繰り返されました。
しかし、
🟥 気持ちだけで判断しないこと
🟥 罰や制裁として扱わないこと(これは虐待にあたる)
この線は絶対に越えてはいけません。
一人で抱えていると判断が揺らぎやすいため、関係する支援者と情報を共有し、
「今回はこのような扱いとする」
という共通認識を持った上で支援方針を確認していきました。
今回選んだ対応|あくまで一例として
今回のケースでは、
- 被害を受けた方々の意向
- 当時の状況
を踏まえ、警察への届出は行わないという判断になりました。
この判断もまた、「正解」ではなく、当時の条件下で選ばれた一つの対応でした。
これはすべてのケースに当てはまるものではありません。
確実に本人のものではないと判断できた金銭については、
- 被害が確認できた利用者
- 通所先の職員
へ返金を行う方針としました。
この一連のお金の動きについては、支援者間で事前に共有し、合意を得た上で進めています。
おわりに
金銭トラブルに対する正解は一つではありません。
しかし、
🟥 やってはいけない支援(罰・感情的制裁)はある
🟨 一人で判断しないことが支援者自身を守る
これは今回、改めて強く感じた点でした。
熱意や気持ちだけではどうにもならない場面が、現場には確かに存在します。
その現実を受け止めながら、判断を共有し、支援を続けていく。
本記事が、その難しさを抱える方々の思考整理の一助になれば幸いです。


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